いよいよあなたの、アメリカの大学への進学準備がスタートします。
アメリ力の教育システムや大学のありかたが日本とまったく異なることは、「基礎編」でよくおわかりになったと思います。
大学進学のプロセスも、日米でかなり違っています。
まず、日本のような一斉入試は、アメリ力にはありません。
したがってアメリ力の高校生は大学受験のための予備校には行きません(都会の高校生の中には夏期などにSAT・ACT対策の予備校に通うことはあります)。
大学の合否は書類審査と面接で決められ、高校の成績、エッセイ、課外活動、推薦状などを通して、さまざまな観点から、じっくり時聞をかけて一人ひとりの志願者を評価するという方法がとられています。
このように多角的で丁寧な審査をすることによって、アメリカの大学は、あなたの人間像や魅力をきちんと捉えようとするのです。
アメリカの高校生の進学準備は、学校の成績やテストスコアを上げるだけではありません。
課外活動に積極的に参加したり、いい推薦状をいただくために先生と信頼関係を築いたり、面接やエッセイを通して熱意を伝えるための表現力をつけたりして、あらゆる手段で自分の魅力を大学にアピールしようとするのです。
また、志望校選びにおいては、人種構成やRetention【(大学の)学生在籍率(全入学者のうち4年次に在籍していた学生の率】といった、日本の大学受験ではまったく考慮しない要素にも目を向けなければなりません。
そして、「入学できるかどうか」だけでなく、「大学の授業についていけるか」「卒業できるかどうか」をも視野に入れなければならないという点でも、日本とは異なります。
第U章で述べたように、「卒業がむずかしい」といわれるアメリカの大学では、 1学期16週間で完結するという速いペースで、 C平均を2学期続けて割ったら退学になります。
アメリ力の高校生は、何が何でもいい大学に入ろう、というよりも、自分の身の丈に応じた大学選びをするのです。
そのためには自分の能力がどれくらいあるのか、客観的に見定めなければなりません。
しかし、だれでもが自分の能力を客観的に測れるわけではありません。
そこでアメリ力の高校では「ガイダンスカウンセラー
(Guidance Counselor) 」という、大学進学のためのあらゆるサポートをする専門のカウンセラーが、進学プロセス全般にわたってアドバイスをしています。
高校生たちは、定期的にカウンセラーと会い、相談しながら、二人三脚で進学準備・志望校選びを行うのです。
本章では、アメリ力の高校生がいかに大学進学の準備をするのか、ということを中心に、合格のチャンスを高めるためのポイントを解説します。
まずは「大学進学カレンダー」を、もう一度チェックしてみましょう。
さあ、いよいよ大学進学準備の一歩を踏み出すときが来ました。
「大学進学カレンダー」を見るとわかるように、アメリカの高校生は、日本のような受験勉強はしません。
一斉入試も、偏差値もありませんから、大学に入るために机にかじりついて勉強するようなことはしません。
ではアメリカの大学は、あなたの何を評価し、どんな能力を期待するのでしょう?
アメリカの大学は志願者を評価する際に、おもに六つの重要な要素を考慮します。
これは"The Significant Six"と呼ばれ、以下の六つの要素を指します(それぞれについてはp.100以降に詳しく説明します)。
1.高校の成績
2.エッセイ
3.推薦状
4.課外活動
5.テスト
(SAT、ACT、TOEFL)スコア
6.面接
アメリカの大学は、ある一つの要素だけで合否を決めるのではなく、上の六つの要素をまんべんなく考慮して、総合的に合否を判断するのです。
大学によっては、ほかに「州民であること」「Legacy (その大学の卒業生の子女)
であること」「人種」なども考慮します。
州立大学は基本的に州民優先です。
レベルの低い州立大学やコミュニティ・カレッジは、上の六つの要素にはほとんど注目せず、州民であるというだけで合格させてしまいます。
Legacyを優遇するのは、おもに私立大学です。
ハーバード大の合格率は11%ですが、"Harvard Legacy"の合格率は40%とグンと高くなります。
私立大学におけるLegacyの合格率 (College Journalより)
大学名 | Legacyの合格率 | 全体の合格率 |
University of Notre Dame | 57% | 31% |
University of Pennsylvania | 41% | 21% |
Harvard University | 40% | 11% |
Princeton University | 35% | 11 % |
人種というのは日本人にはピンとこないかもしれませんが、アメリカの大学には"Affirmative Action" (マイノリティ優遇措置)をとっているところがけっこうあって、そういう大学では、マイノリティ(白人以外の人種)が優遇されるのです。
とくにネイティブ・アメリカンは人口も少ないので(また歴史的に白人が迫害してきたことへの罪滅ぼしの意識もあって)、それだけで合格のチャンスはかなり高まります。
さて、大学がおもに上の六つの要素を総合的に評価するといっても、すべてにおいてすぐれていなければ不合格になるというわけではありません。
もちろん、それにこしたことはありませんが、大切なのは、あなたが「他人と比べてユニークなところ」「自分にしかない持ち味」を、しっかり大学にアピールすることです。
アメリカの大学が求めるのは、「ユニークな人材」です。
勉強ができる生徒だけを望むのではありません。
勉強ができること(=高校の成績がよいこと)はもちろん大切ですが、勉強とかかわりがなくても、何か得意なことがある、とか、他人と比べてキラリと光るところがある、といったことを、アメリカの大学は高く評価します。
なぜなら、アメリカの大学は多様性やバランスを大切にしているからです。
多様性というのは、いろいろなタイプの学生を集めたいということです。
バランスというのは、「バランスのとれた人」ではなく、何か一つでもいいから傑出したところがある、ユニークなところがある、という生徒たちを入学させて、「入学生全体としてバランスがとれたグループにする」ことを、アメリカの大学は望むのです。
「音楽もスポーツもそこそこできるA君」よりも「音楽ならだれにも負けないBさん」「部活の主将を2年間務めたCさん」のほうが、大学にとっては魅力的だということです。
同質の学生ではなく、お互いによいところを刺激しあうことが大切だと、アメリカの大学は考えるのです。
先述のように、授業はディスカッションが中心なので、同質な学生ばかりが集まってしまってはおもしろくないわけです。
大学進学を控えた高校生にとっての大きな課題は、「いかに大学に自分の魅力をアピールするか」ということです。
高校生活を通して、勉強に、課外活動に、あなたの力を大いに発揮し、それを成績表やエッセイ、推薦状などを通して大学にアピールしていくのです。
そのためには、まず「自分の魅力とは何だろう?」 「自分とは何なのか?」といった、あなた自身の人物像をよく把握することが大切です。
たとえば、
などを手がかりにして、あなたのユニークなところや強み、魅力は何なのか、時間をかけてよく考えてみましょう。
このような自己評価をすることで、進路の方向性が見えてくるだけでなく、効果的な自己アピールの手だてを講じられるようになります。
「自分はまったく平凡で、変わったところなど何もない」と決めつけてしまわないこと。
時間をかけて、いままでの十数年間を振り返ってみると、何かしら「あなたらしさ」が浮かび上がってきます。
幼少時のことなども、家族や親戚から聞き出すといいでしょう。
また友達や先生、カウンセラーからも評価を仰いでみましょう。
きっと新たな自分を発見できるはずです。
そしてできれば、そんな「あなたらしさ」を、言葉で表現できるように練習しておくといいでしょう。
日記をつけたり、家族や友達に語りかけたりして、身近なところで表現力をつけていきましょう。
出願するときになって、エッセイや面接でその表現力が生かされます。
留学生は、海を越えて大学に行こうとしているだけで、アメリカの高校生と比べて、十分ユニークです。
ユニークさをアピールできるという点では、あなたはアメリカの高校生よりも一歩リードしているのですから、自信をもって進学準備に臨んでください。