いろいろな例を見てきましたが、子どもたちの教育についての考えかたというのは、もちろん、その両親や、周りの育った環境から大きく影響を受けます。
アメリカには、ビバリーヒルズに見られるような大豪邸に育った人も、周りが麻薬中毒やアル中の人ばかりといった環境に育つ人もいます。
また、そういった環境が一つの町ごとにクッキリ分かれているのもアメリカの特徴です。
大豪邸に育った人でも、親の教育レベルや教育への関心が高い人から、お金さえあればよいと考えている親までいるでしょうし、貧しい地域に住んでいても、何とか子どもにはよい教育を受けさせてこの環境から抜け出させたいと考えている親もいます。
アメリカは、世界ーの移民受入れ国であり、かつ教育国です。
教育はアメリカの宗教だと考えている人もいるくらいです。
アメリカではどんな貧しい境遇で、どんな悲惨な目に遭って、自国の字を書くことすら満足でない移民でも、学齢期の子どもには、ともかく小学校・中学校・高校と入学させます。
そして、教科書も無料で貸し出して、教育レベルを上げようと努めるのです。
ところが教育レベルを上げても上げても、それに追いつかないくらい、たくさんの新移民が押しかけてきて、また、平均すれば教育レベルが下がるというジレンマに陥っていますので、全国平均では日本やヨーロッパに及びません。
小・中・高校、大学間の格差がとてつもなく大きく、日本の灘高と都立工業高校との差、あるいは東大と偏差値30台の私大との差といったようなものではない、言ってみれば人間そのものの違いがあるのです。
トップレベルであればノーベル賞続出、オリンピック金メダル続出、下のほうのレベルになると、父親は麻薬患者、母親は刑務所の中、麻薬を売りながら大学に行っているなんてこともあり得るわけです。
発展途上国であれば、低所得者の家庭の子どもは学校に行くなんてことすらないわけですが、アメリカの場合は、大学にまで行くことができます。
そういう意味では、アメリカは世界一、教育が平等に行われている国です。
何しろ不法移民にまで行き渡っているのですから。
アメリカは、アメリカ人になった時期が、各々個人、家庭によって違います。
また、神の下に皆平等というキリスト教の精神にその多くは支えられています。
アメリカンドリームを夢見ることは、いまでもアメリカ人の心の中にありますが、そのことが、必ずしもハーバードやイエールに進学するということにはつながりません。
なぜなら、アメリカンドリームを成し遂げた人たちの学歴がバラバラだからです。
また、多くを望まない人もたくさんいます。
すなわち、住めるに十分な家と食べるに十分なお金とよい家族がいればそれでとっても幸福という人たちです。
結果、 1日24時間働いても足りない、超・有能敏腕弁護士と、9時から5時までしか働かない秘書が共存・共営してお互いに認めあっているということがあり得るわけです。
したがって学歴に対する考えかたも、けっこうまちまちです。
何が何でもハーバードに行かなければならないとか、ハーバードに行きさえすればアメリカンドリームを成し遂げて幸せになれる、なんて単純なことは思っていません。
ハーバード大学を出たからといって、何の経験もなければ、破格のお給料をもらえるわけではありません。
また、一つの会社にずっといれば、ハーバード卒ということだけで順次、出世することはありません。
たしかに、ハーバードのビジネススクール(大学院)を出れば、はじめから10万ドルとか15万ドルというお給料を約束されますが、それもハーバード卒というだけでなく、それ以前の本人の社会経験も大いに考慮に入れますし、何より入社して給料に見合うだけの働きがなければ(通常、給料の3〜4倍といわれます)すぐクビになるか、1年後にはお給料がグンと下がります。
したがって、何が何でもハーバードという考えはありません。
また、日本と大きく違うのは、ハーバード大学を出たからといってハーバード大学院のビジネススクールやロースクール、メディカルスクールに優先的に入ることができないことです。
何しろ、純粋培養は腐ると信じているアメリカ人のこと、なるべくバラエティ・バランスに富んだ学生をとりたいというのが大学院の考えです。
ハーバードで博士号をとったらハーバードに残れないのが普通で、ハーバードにふさわしい業績をあげたら、ハーバードに戻って先生になれるということはあっても、卒業生だから優先というようなことは極力しない方針です。
つねにバラエティ・バランスが大好きで、世界から研究者を集めて研究をしたいわけです。
ハーバードのメディカルスクールとしても、ハーバード大学のトップ10をとるより、全米から各大学のベスト1をとったほうがよっぽどおもしろいクラスができると考えるわけです。
東大に入ってそのまま東大の大学院に進んで学者になる、というような図式はありませんから、ハーバードの医学部に進学するのにハーバード大を狙う必要はないのです。
アメリカの国土は日本の25倍あります。
歴史的には最初は13州で、約120年かかって50州になりました。
13州が独立したとき、カリフォルニアはメキシコ領であったため、カリフォルニアの地名はみんなスペイン語です。
テキサスに至ってはいまだ独立国だと主張するグループが運動をしています。
税金も義務教育の年月も州によって違います。
こうなってくると、必ずしも州を越えて教育に興味をもつとは限りません。
カリフォルニア州の人に聞くと、同州にあるStanford UniversityやUCLAのことは言っても、アイビーリーグなど、スノビッシュ(お高くとまった)で暗くてイヤな学校だなんて言う人もたくさんいますし、東部の人はカリフォルニア州の学校のことはほとんど考えていません。
それに何より、各州立の大学は州内の学生に特別の料金体系をしいています。
ちなみにUCLAの学費は州内出身者は約11,000ドル、州外は約34,000ドルで、University of Massachusettes -Arnherst は州内は約12,000ドル、州外は約24,000ドルです。
自分の州にとてもプライドをもっている人もいます。
お父さんの転勤で各州を引っ越して生活した人たちもたくさんいますが、その州から出たことがなく、州内の企業で勤めている人もたくさんいるのです。
そんな人の子弟は、必ずしも州外の大学には興味をもちません。
医学部や法学部も、州立大学では絶対州内の学生を優先しますから、州内の大学を受けるほうが有利なのです。
かくして全国レベルでは決して高くなくても、その州でトップや2番手くらいの大学になると、とてもとても優秀な学生が必ず一握りいるというのがアメリカの特徴です。
また、アメリカで一流といわれる大学をちょっと考えてみてください。
実際、おそろしくたくさんあって、日本の比ではありません。
まして、学部ごとにも評価の違う判定を出す国です。
まあ、なかなか日本の偏差値のように、簡単に大学を評価できるものではありません。
このように見てきますと、アメリカの大学は、各々、州の人を優先するとか、州内のトップの人を入学させるとか、州内ならだれでも入学させるとか、私立なら全人格的なことを判断して入学を決める(とても日本人にはわかりにくいのですが)とか、まあ大学により大学院により、入学基準がさまざまであり、また、アメリカ人も、大学に対してさまざまな考えをもっていて、まず生きるための職を得ることを望んで大学に行くという人から、ごく普通の生活を手に入れるために普通の大学に行っておこうという人、ともかく学費が安いことが一番大切という人から、アイビーリーグを狙いたいという人まで、本当にさまざまです。
しかし、アメリカ人を見ていると、若くても自分の育った家庭環境や、経済力、自分の能力のなかで、一番いい方法を考えよう、という、ちゃんとした人生を生きていくための知恵をもっているように思います。
自分の分を、ある程度本能的に考えているということでしょうか。
もっと欲が出てきたら、そのときの努力によって、いつでも新たなチャンスが得られる教育体制になっている国だからでしょうか。
先に見たさまざまなケーススタディからもわかるように、アメリカの若者は皆、独立精神が旺盛です。
自分に忠実に生きようとしていて、必ずといっていいほど家を出ます。
親の家にいて食べさせてもらうということはとても少ないのです。