これまで再三述べてきたように、アメリカの大学が合否を決める際に最も重視するのが、高校の成績 (High School Grades)です。
アメリカの大学は、大学レベルの勉強についていけるだけの学力・学習意欲があることを、入学生に期待します。
入学はチャンスを与えることに過ぎませんが、入学させたからにはできるだけ成功してもらいたいし、充実したハッピーな学生生活を送ってほしい、と大学は考えるのです。
そのためには、それぞれの大学が求める大学卒業のための条件(必須科目や成績など)を満たせるだけの、学力や学習習慣が欠かせません。
その最大の目安が、高校の成績なのです。
アメリカの大学は、「真の学力はテストスコアだけでは測りきれない」と考えています。
たしかにSATやACT(留学生の場合はTOEFL。)も大切ですが、そうしたテストについては、どこかテクニックとか、「テスト慣れ」みたいな要素がスコアに影響します。
むしろ、つね日ごろの学習習慣や意欲とかいったものが本来の学力なのであって、それはやはり高校の成績表のほうに表れてくるのです。
アメリカの大学が高校生の学力を判断するにあたって、具体的には以下のことに注目します。
アメリカの高校は四年制(日本の中3〜高3にあたる)が多く、9年生(Freshman)から 12年生 (Senior)までの成績が評価されます。
4年間にとったすべての科目の成績の平均をHigh School GPA (Grade Point Average)といい、大学によって2.5以上 (4段階)とか3以上といったGPAの基準を設けています。
GPAが高ければ高いほうがいいのは言うまでもありませんが、かといってGPAだけで合否を決めるかといえば、必ずしもそうではありません。
また、たとえば大学が「物理学科を充実させたい」と考えている場合、GPAがちょっとくらい低くても物理は飛びぬけてよくできるという生徒を優遇する、ということもあり得ます。
なお日本人の場合は高校3年間の成績が問われます。
できれば5段階で3平均以上は欲しいところです。
もちろん、成績がよければそれにこしたことはありません。
アメリカの高校の科目は、大まかにいって3レベルに分けられます。
低いほうからRegular、Honor、AP(Advanced Placement)の3レベルです。
高いレベルの科目でいい成績を修めれば、それだけ大学での勉強への準備ができていることを示しますので、大学は、高校4年間の成績の平均よりも、むしろ HonorとかAPの科目の成績のほうを重視します。
RegularクラスのAよりも、APクラスのBのほうが評価が高いのです。
日本の高校にAPクラスはありませんが、そうした事情はアメリカの大学はちゃんと心得ています。
日本の高校の教育レベルの高さもよく知られているので、この点では心配することはありません。
内容的には、日本の高校3年生が学ぶ科目は、アメリカの高校のAPクラスに相当すると言えるでしょう。
ですので、高校3年次の成績がとりわけ重要になると心得ておきましょう。
大学は基本的には、以下のような科目を9〜12年生の聞にとっておくこと、といった入学基準を設けています。
4年間の国語
4年間の数学
3年間の歴史・社会科学
3年間の理科
2年間の外国語
アメリカの多くの高校では、だいたい上の基準を満たすだけの必須科目を設けていますが、時間割は生徒がそれぞれ自分で組みます。
アメリカの高校(とくに私立高校)は選べる科目の数・種類が多く、「国語」といっても文学から作文、創作、文学史などいろいろ選べますし、生徒の学力によってとる科目のレベルも異なります。
ですからどんな科目をとったかということも、アメリカの大学は考慮に入れます。
よりむずかしい科目、よりレベルの高い科目をとったほうが、大学からは高い評価を得られるのは言うまでもありません。
たとえば外国語でラテン語を選択すると、それだけむずかしい言語にトライしたということを評価され、たとえ悪い成績を修めてしまっても、チャレンジ精神や意欲を認めてくれるでしょう。
アメリカの高校生は、大学進学を念頭に置きながら、ガイダンスカウンセラーと相談して、科目選択をしています。
日本の場合は、アメリカほど科目選択の自由がありませんが、いわゆる主要5科目をまんべんなくとっておけば問題ありません。
また、たとえば文系と理系とでクラスが異なっているからといって、いずれが有利になるとかいうことはありません。
なお外国語の必須は、留学生には免除されます。
例.Trinity College (コネチカット州)が定める、高校でとっておくべき科目
国語 | 4年間 |
外国語 | 3年間 |
実験科学 | 2年間 |
代数 | 2年間 |
幾何 | 1年間 |
歴史 | 2年間 |
1年生より2年生、2年生より3年生、3年生より4年生、というように、成績が上がっているほうが、大学にはいい印象を与えます。
年次が上がるにしたがって成績が少しずつでも上がっていれば、学習意欲や努力が認められ、高校4年間のGPAが少しくらい低くても合格のチャンスは高まります。
大学への出願時期は12〜3月くらいですので、アメリカの高校の場合は、JuniorからSeniorの前期 (9〜12月)にかけての成績がとりわけ重視されます。
成績が最近のものであればあるほど、大学でやっていける学力があるかどうかを示す目安になるからです。
日本の高校生の場合、3年生の1・ 2学期の成績が最も大切だということになります。
高校1・2年の成績が思わしくないからといって、悲観せずに、前向きに勉強に取り組みましょう。
なお、高3の3学期の成績が出た時点で、たとえ合格が決まっていたとしても、その成績を提出しなくてはなりません。
3学期に著しく成績が落ちている場合、再審査になってしまうこともあるので、卒業まで気を抜かずに勉強しましょう。
アメリカでも、ついついSeniorの後期(1〜5月)で手を抜いてしまい、大学から説明を求められたり、稀には合格を取り消されたりして、痛い目に遭う高校生が少なからずいるようです。
また、Wait List (補欠の状態)にある場合、3学期の成績が合格を決定づける大きな要因になります。
3学期の成績はまた、ビザ申請(→ p.175)にも影響します。
これらの理由からも、やはり最終の成績が出るまで高校の勉強に真剣に取り組むことが大切です。
アメリカではClassとは「学年」のことをいいます。
Class Rankとはつまり「学年順位」です。
クラス=組ではありません(アメリカの高校には日本の「組」にあたるものは存在しません)。
アメリカの高校生の成績表には、たとえば「128人中35位」というようにClass Rankが明記されています。
大学によって、たとえば「学年でトップ10%以内」とか「30%以内」といった入学基準を設けていたりしますが、やはりClass Rankだけで合否が決まるわけではありません。
Class Rankが重視されるのは、とくに公立高校生が州立大学をめざす場合です。
私立高校は高校自体のレベルが高く、またレベルの高い高校ほど生徒をランクづけしないので、Class Rankが取り沙汰されることはあまりありません。
一般に州立大学はGPAやClass Rankといった「数字」を重視するのに対し、私立大学はそれだけでなく、個々の科目の内容やレベル、得意・不得意などにも注目します。
なお州立大学では、州内出身者と州外出身者とでClass Rankの基準が異なる場合があります。
たとえばUniversity of IowaのClass Rankの基準は、州内の公立高校生は上位50%であるのに対して、州外の高校出身者には上位30%以内を求めています。
これはずいぶんな差です。
日本の高校ではアメリカのようなClass Rankは設けられていませんので、これが問われることはありません。
また高校でランクづけされていないことが不利になることもないので、ご心配なく。
ただ、他の生徒に比べてどのくらいよくできるか(受けもっている生徒の中ではつねにトップ10である、など)ということを、推薦状で先生に書いていただくのはプラスになります。
第T章でも述べましたように、アメリカは教育の地域格差がとても大きく、また公立高校と私立高校とでも教育レベルに大きな開きがあります。
同じGPAの高校生でも、その生徒が通った高校のレベルによって、当然、学力も異なるわけです。
そこで大学は、高校そのもののレベルにも目を向けます。
ただし、高校までが義務教育のアメリカのことです。
本来は学力があるのに、たまたま住んでいる学区の高校のレベルが低かった、ということもあり得ます。
ですから大学は、高校のレベルを考慮しながらも、「与えられた環境でベストを尽くした」ことのほうをより高く評価します。
日本でも、いわゆる進学校とそうでない学校とではレベルは異なります。
しかしほとんどのアメリカの大学は、日本の個々の高校のレベルまでは把握していません。
進学校で思わしくない成績を修めてしまった場合は、いかに高校のレベルが高いかということを、推薦状に書いてもらうなどして大学に伝えましょう。
客観的なデータ (「県でトップ3」とか)を添えるとより効果的。
ちょっとした客観データでも、アメリカの大学にとってはとても有用な情報になります。
成績証明書 (High School Transcript)は、出願時に、他の書類と一緒に大学に提出します。
英文のもので、
が明記されているものを在校している高校に発行してもらいます。
アメリカの学校の成績は4段階が主流ですが、5段階評価のものでかまいません。
その場合は5段階評価であることの但し書きを付記します。
また「この書類は、当校が発行した正式の書類である」ということを証明するための学校印(official seal)と、発行責任者として校長先生の直筆のサインが必要です。