アメリカの大学は、寮制が基本であることは第I章で述べました。
学生たちは一緒に勉強をしたり食事をしたりといった日々の生活を通して、助け、助けられ、自分が所在する場を実感していく中で、学生同士の連帯感を強め、フェアな精神を学びます。
寮でアメリカ人の学生と一緒に生活をしていると、アメリカ人の生活の習慣やマナーが実感できます。
日本ではごくあたり前のことがアメリカでは特別なことであったり、逆にアメリカでは普通であることが、日本人の目には新鮮に映ったりします。
こういった日米間の文化の違いは、アメリカ人と一緒の生活にどっぷり漬かることで、より鮮明に、実体験として感じとることができます。
寮には、大きく男子寮(men's dorm)、女子寮(women's dorm)、男女共有寮(coed dorm)の3タイプあります。
男女共有寮は、フロアや建物ごとに男女が分かれていて、男子学生と女子学生がお互いの部屋を自由に行き来できる時間(Intervisitation Hours)は制限されています。
そのほか、上級生専用の寮や留学生専用の寮、夫婦専用の寮などを設けている大学もあり、"Quiet dorm"といって、静かに暮らすことが義務づけられている寮もあります。
寮の部屋は、二人部屋が主流です。
10畳くらいの広さで、ベッドが二つ、机が二つ、クロゼットが二つあります。
ベッドを二つ置くとスペースをとられるので、上下に重ねて二段ベッドにする学生もたくさんいますが、それでもテレビや冷蔵庫を置いたら自由なスペースは限られてしまいます。
というわけで、寮生活はおのずと質素になります。
新入生については、大学が事前にそれぞれの学生の部屋とルームメイトを割りあてています。
大学に着いて、割りあてられた部屋に入るまでルームメイトがだれになるのかわかりませんが、このルームメイトとうまくやっていけるかいけないかによって、留学生活が大きく左右されます。
多くの留学生は、この初めて出会うルームメイトと友情を育み、大学生活を通して親友とも言える関係を築いていきます。
しかし、どうしてもルームメイトと気があわないということもあるでしょう。
寮生活は共同生活ですから、わがままばかりが通るわけではありませんが、一緒に生活することがお互いにとって明らかにマイナスになるのであれば、ルームメイトの変更もしくは部屋の変更を申請することができます(ただし、必ず変えてもらえるわけではありません)。
なお、2年目以降は気のあう仲のよい学生同士でルームメイトになります。
部屋ごとに電話線がひかれ、電話番号が与えられます(電話器そのものは各自が用意します)。
キャンパス内通話といわゆる市内通話(Local Call)の通話料は無料です。
遠距離通話の料金は、毎月小切手かクレジットカードで支払います。
しかし、最近は携帯電話を使用している学生がほとんどです。
もちろんインターネットの接続環境も校内LANで整っていて、入学と同時にEメールアドレスも取得します。
LAN接続ですので、プロパイダ料や通話料を気にせず自由に使うことができるのは、寮生活の大きなメリットのーつと数えていいでしょう。
最近は多くの大学で光ファイバーをひいています。
シャワ一、トイレ、キッチン、洗濯機などはいくつかの部屋で、あるいはフロアごと、あるいは寮全体で共用します。
コンピュータルームや自習室、ラウンジなども共用です。
娯楽施設をもつ寮もあり、アスレチックルーム、ビリヤード、ビデオゲーム、さらにはプールを備えた寮も見られます。
田舎の大学では、キャンパスの外に出ても何もありませんが、寮にいれば、生活に困らないだけの生活は十分に送れます。
あとはいかに日々の生活を楽しくするか、それはあなたの工夫次第ということになります。
(Dorms like palaces,Princeton Reviewより)
Pepperdine University (CA) |
Loyola University Maryland (MD) |
Smith College (MA) |
Scripps College (CA) |
Bryn Mawr College (PA) |
St John's College (NM) |
Claremont McKenna College (CA) |
Agnes Scott College (GA) |
Bowdoin College (ME) |
それぞれの寮には、Resident Director (通称RD)と呼ばれる寮長が住んでいます。
大学に雇われた専任スタッフで、寮内のルールがきちんと守られているか監視したり、寮内のさまざまな問題を解決したり、イベントを企画したりといったことをします。
同じ寮に住んでいるので、いつでも相談にのってくれます。
また、たいていフロアごとに寮長のアシスタントとしてResident Assistant (通称RA)という人が住んでいます。
RDと違って、RAは学生によるアルバイトで、寮生たちとより親しく、よりダイレクトな関係にいる人です。
自分の受けもつフロアで寮生たちが何の問題もなく安全に生活していけるよう注意したり、さまざまなトラブルの解決にあたったりします。
RAを務めると寮費が免除になり、一人部屋を与えられるので、RAになりたいという学生はたくさんいます。
立候補者が多数いる場合は、成績や作文、面接などの審査によって選別されます。
キャンパス内でアルバイトをすることは留学生にも許されていますから、2年目以降、RAを務める日本人留学生もいます(さすがに1年生はRAになれません)。
RDとRAは、寮生活の中では必ずあなたとかかわりをもつ人たちです。
とくにRAは同じフロアに住んでいるだけあって、一方ではルールの取り締まりに厳しくもありますが、相談をもちかければ親身に対応してくれ、留学生には心強い存在です。
ほとんどの大学の寮では、観賞魚や小さな爬虫類、盲導犬以外の動物は飼うことができません。
ところがミズーリ州の女子大、Stephens Collegeでは最近、40ポンド以下の犬・猫・ウサギであれば飼ってよい寮ができました。
研究によると、犬や猫は人の気持ちを穏やかにし、血圧を低く保つのに貢献するそうです。
第I章で紹介したハイジとエミが在学した大学、University of Massachusetts -Amherstには、外国語を共通語とする寮があります。
寮ごとに、中国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語、スペイン語のいずれかを共通語として使うルールがあるのです。
この寮に住むためには、その言語の日常会話ができることと、2単位分の会話・文化の科目をとることの条件があります。
アメリカの多くの大学(とくに大学院の課程に多い)では、起業家を育成するコースがありますが、University of Marylandでは、その起業家を育てる目的の寮が2000年にできました。
この寮にはビジネス学科の教授も一緒に住み込み、学生は寮の会議室で日夜新しいアイデアを考えたり、人脈を広げたりします。
また、この寮にはゲストムールが完備されており、企業の社長や幹部が訪れて、講義をすることも。
小学生の55%が「将来起業家になりたい」と言っているように、アメリカはまさに起業家大国です。